製造委託契約の注意点|図面の権利と金型の所有権
金型代を払ったのに、金型を引き取れない契約になっていることがあります。
製造委託でトラブルになったとき、頼りになるのは「そのとき何を決めていたか」です。 特に 金型の所有権 と 図面の権利 は、 決めていないと取引先を変えられなくなります。
金型をめぐる取り決め
| 項目 | 決めること | 決めていないと |
|---|---|---|
| 所有権 | 費用負担者(委託者)に帰属することを明記 | 費用を払っても引き取れない |
| 保管 | 誰が、どこで、何年保管するか。保管料の有無 | 数年後に「廃棄しました」となる |
| 返却 | 取引終了時に返してもらえるか。輸送費の負担 | 他社へ移せず、値上げに応じるしかなくなる |
| 修理・メンテナンス | 何ショットまで無償か。修理費の負担 | 摩耗による寸法変化の責任が曖昧になる |
| 廃棄 | 廃棄する際の事前連絡と同意 | 知らないうちに処分される |
金型代を支払ったのに所有権の記載がなく、 値上げを断ったら「型は当社の資産です」と言われて移管できなかった、 という事例があります。 発注書の但し書きでもよいので、 「本金型の所有権は委託者に帰属する」の一文を必ず残してください。
図面・技術情報の扱い
- 秘密保持契約(NDA):図面を渡す前に締結する。見積もり依頼の段階から必要
- 目的外使用の禁止:本件の製造以外に使わない、第三者に開示しない
- 成果物の権利:改良や工夫が生まれた場合、権利がどちらに帰属するか
- 返却・破棄:取引終了時に図面データを返すか消すか
- 再委託の可否:他社に流す場合の事前承諾。どこで作られているか把握できなくなるのを防ぐ
下請法の対象になる場合
資本金の組み合わせで自動的に適用されます。対象なら、次が義務になります。
| 義務 | 内容 |
|---|---|
| 発注書面の交付 | 発注時に、数量・単価・納期・支払期日を書いた書面(電子可)を渡す |
| 支払期日 | 受領日から60日以内。手形も期間制限がある |
| 受領拒否の禁止 | 発注どおりの品を、自社都合で受け取らないのは違反 |
| 減額の禁止 | あとから「協力金」などの名目で差し引くのは違反 |
| 買いたたきの禁止 | 著しく低い単価を一方的に決めるのは違反 |
| 書類の保存 | 取引の記録を2年間保存する |
※ 製造委託の資本金区分:発注側が3億円超 × 受注側3億円以下、 または発注側1千万円超〜3億円以下 × 受注側1千万円以下。
基本契約に入れておく条項
- 品質保証と検査:合否の基準、検査の方法、不合格時の扱い
- 納期遅延:遅れた場合の連絡義務と、損害の負担範囲
- 製造物責任:完成品で事故が起きた場合の責任分担
- 不可抗力:災害や材料の供給停止で作れない場合の扱い
- 価格改定:材料費が上がったときの協議方法。一方的な値上げも据え置き強要も防げる
- 契約終了:解約の予告期間、仕掛品と在庫の買い取り
試作を1回だけ頼むのであれば、条件を書いた発注書で足ります。 ただし 金型を作る・継続して発注する・図面を渡す のいずれかに当てはまるなら、 基本契約と NDA を先に結んでください。 あとから結ぼうとすると、既に渡した情報については効力が及びません。
よくある質問
金型代を払えば、金型は自社のものになりますか?
なりません。費用を負担しても、契約に所有権の定めがなければ製造側の資産として扱われることがあります。将来ほかの会社で成形したくなったときに引き取れず、取引先を変えられない状態になります。<strong>所有権・保管・返却の条件</strong>を必ず書面にしてください。
図面を渡すと、そのまま他社向けに使われませんか?
秘密保持契約(NDA)と、図面の目的外使用を禁じる条項で防ぎます。また「本件のために作成した技術情報の権利は委託者に帰属する」と明記しておくと、加工方法の改良分まで含めて整理できます。
下請法は自社に関係ありますか?
資本金の組み合わせで決まります。製造委託の場合、発注側が資本金 3億円超で受注側が 3億円以下、または発注側 1千万円超〜3億円以下で受注側 1千万円以下なら対象です。対象なら、発注書の交付、60日以内の支払い、受領拒否や減額の禁止などが義務づけられます。
契約書は必ず結ぶ必要がありますか?
単発の試作なら発注書だけでも進められます。ただし金型を作る、継続的に発注する、図面や技術情報を渡す場合は、基本契約と NDA を結んでおくべきです。問題が起きてからでは条件を決められません。
まとめ
- 金型は費用を払っても自動的に自社のものにならない。所有権を明記する。
- 保管期間・返却・廃棄の連絡まで決めておくと、取引先を変えられる状態を保てる。
- 図面を渡す前に NDA。目的外使用と再委託の可否も定める。
- 資本金の組み合わせで下請法の対象になる。発注書の交付と60日以内の支払いは義務。
※ 契約の内容は取引ごとに異なります。重要な取引では弁護士にご確認ください。
掲載している金額は、一般的な発注で見かける水準をもとにした目安です。 実際の費用は要件・地域・体制によって変わります。必ず複数社から見積もりを取り、 「何が含まれていて、何が含まれていないか」を比べたうえでご判断ください。