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費用・相場 / 更新:2026年8月19日

ベトナムの人件費の実態|手取りの約2倍が会社の支出になる

相場として語られる金額はネット(手取り)です。会社の支出はその2倍になります。

ベトナムの人件費の実態|手取りの約2倍が会社の支出になる

ベトナムに開発拠点を持つ場合も、 オフショア会社に委託する場合も、 「エンジニアの給与=人件費」ではありません。

給与の外側にかかる費用が想像より多く、 ここを見落とすと予算が合わなくなります。 実際にハノイで拠点を運営している立場から、内訳を整理します。

給与の相場

役割月額(ドン)
※ネット(手取り)
備考
エンジニア(通常レベル)1,200万〜2,000万経験3〜5年程度
リーダー・マネージャー2,500万〜3,000万以上チームを見る立場
ブリッジエンジニア2,500万〜3,000万以上日本語で仕様を詰められる人材

ブリッジエンジニアが高いのは、日本語と技術の両方が要るためです。 該当する人材は限られており、各社で取り合いになります。 「ブリッジを1名付けます」という提案の単価が高く見えるのは、この相場が背景にあります。

そしてこの金額はネット(手取り)です。 ここが最初の落とし穴で、次に説明します。

ネットとグロスで、会社の支出はまったく違う

ベトナムでは給与を「手取りいくら」で交渉するのが一般的です。 求人でも、面接での希望額でも、出てくる数字はたいていネットです。

グロス契約ネット契約
合意する金額総支給額手取り額
本人負担の社会保険(約20%)本人が負担会社が肩代わり
個人所得税本人が負担会社が肩代わり
会社の支出読みやすい税率が上がると増える

「月2,000万ドン」が同じでも、ネットかグロスかで会社の支出は約1.3倍変わります。 ネットで合意した場合、会社は本人負担ぶんの社会保険と個人所得税を上乗せして払うことになるためです。

グロス2,000万の場合ネット2,000万の場合
総支給(グロス)2,000万約2,530万
本人負担の社会保険(20%)400万約506万
個人所得税約3万約24万
本人の手取り約1,600万2,000万
会社負担の保険(算定基礎の35%)700万約886万
会社の支出(月)2,700万約3,420万

※ 独身・扶養なし、基本給と総支給が同額として試算した目安です。 料率と控除額は改定されます。実際の計算は現地の会計事務所にご確認ください。

採用時も見積もり時も、その金額がネットかグロスかを必ず確認してください。 ここを取り違えたまま人数分を掛けると、予算が根本から合いません。

個人所得税は、控除が大きいので思ったほどかからない

ベトナムの個人所得税は最高35%の累進課税ですが、 控除がかなり手厚いため、一般的なエンジニアの給与帯では負担は小さく収まります。

控除金額
基礎控除(本人)月1,550万ドン(年1億8,600万ドン)
扶養控除(1人あたり)月620万ドン
社会保険料控除強制加入分の拠出額(全額)
寄付金控除法令で認められた基金への寄付

基礎控除だけで月1,550万ドンあります。 グロス2,000万ドンの社員なら、 そこから社会保険の本人負担400万ドンと基礎控除1,550万ドンを引くと、 課税対象はわずか50万ドン。税額は月3万ドン程度にしかなりません。

さらに扶養家族が1人いれば月620万ドンが上乗せで控除されるため、 子どものいる社員はほとんど税金がかからない、ということも普通に起こります。 「累進で最高35%」という数字だけを見て身構える必要はありません。

日本人を現地に置くと、税負担は一気に重くなる

一方で、日本人スタッフを現地に駐在させる場合は前提がまったく変わります。

  • 給与水準が現地社員より高いため、累進の上の階層に入る
  • 扶養控除を使えないことが多い(家族が現地にいない、登録が難しい)
  • 控除の効き目が相対的に小さくなる(基礎控除の額は同じため)

結果として、現地社員では数万ドンで済む税額が、 駐在員では桁が変わります。 ネット契約(手取り保証)で駐在させる場合、 この税金は会社が負担することになるため、 想定していた駐在コストを大きく超えることがあります。

また、税務上の居住者か非居住者かでも扱いが変わります。 滞在日数によって適用される税率の考え方が変わるため、 駐在を決める前に必ず現地の税務の専門家に確認してください。

社会保険の会社負担が重い

金額として最も大きいのが社会保険です。 ベトナムは日本と比べて会社側の負担が明確に重く、 算定基礎に対しておよそ35%が会社負担になります。 本人の負担はおよそ20%です。 (算定基礎は総支給額ではなく基本給が中心です。次の節で説明します)

負担の目安(算定基礎に対して)
会社負担約35%
本人負担約20%

日本では会社負担が1〜1.5割程度なので、 その2倍以上を会社が持つことになります。 ネット契約の場合は、ここに本人負担の20%と個人所得税も会社が肩代わりします。

※ 料率は改定されます。実際の計算は現地の会計事務所にご確認ください。

基本給と手当の設計で、負担は変えられる

ここが実務で最も効く部分です。 社会保険がかかるのは総支給額ではなく、基本給を中心とした算定基礎です。 一定の手当は算定の対象から外れます。

つまり基本給を抑えて、代わりに手当を厚くすれば、 同じ手取りのまま社会保険の負担を下げられます。 現地企業では一般的に行われている設計です。

支給の設計社会保険の算定基礎会社負担
全額を基本給にする大きい重い
基本給+各種手当に分ける小さくなる軽くなる

対象から外しやすい手当としては、 昼食手当、交通・燃料手当、電話手当、住宅手当などがあります。 ただし手当の種類ごとに扱いが異なり、非課税・算定除外には上限がある点に注意してください。

やりすぎない

負担を減らせる一方で、行き過ぎると別の問題が出ます。

  • 地域別最低賃金を下回れない(基本給には下限がある)
  • 算定対象になる手当もある(役職手当など。すべてが除外されるわけではない)
  • 不自然な構成は指摘を受ける(基本給が極端に低い設計は当局に見られる)
  • 本人の受け取る給付が下がる(年金・出産・傷病などの給付は算定基礎で決まる)

4つめは本人にとっての不利益です。 会社の負担が減る分、社員が将来受け取る給付は下がります。 現地の社員もこの仕組みを理解しているため、 極端な設計は不信につながります。 節約の手段としてではなく、 実費に見合う手当を正しく設計するという考え方で組むべきです。

※ 算定基礎に含まれる手当の範囲と上限は制度改定で変わります。 設計する前に必ず現地の会計事務所・労務の専門家にご確認ください。

給与以外にかかる費用

ここが日本の感覚と最も違う部分です。 現地では「あって当たり前」に近い扱いのものが多く、 外すと採用にも定着にも響きます。

費目頻度位置づけ
テト賞与年1回(旧正月前)実務上ほぼ必須。月給1か月分が目安
社員旅行年1回実施している会社が多い
昼食代毎月手当として支給、または社内で提供
おやつ代常時オフィスに用意しておくのが一般的
誕生日プレゼント各人 年1回金額は大きくないが全員分
祝祭日のお小遣い年に数回建国記念日など。少額を配る慣行

1件ごとの金額は大きくありませんが、人数×回数で効いてきます。 10名の拠点なら、誕生日プレゼントだけで年10回発生します。 日本の感覚で「福利厚生は後回し」と考えると、 採用できない、あるいは入ってもすぐ辞めるという形で跳ね返ってきます。

特にテト賞与は重要です。 旧正月は現地で最も大きな行事で、賞与を受け取ってから転職する人が多くいます。 金額が他社より見劣りすると、テト明けにまとまった人数が抜けます。 年間予算を組むときは、この時期の支出を必ず先に確保してください。

総額のイメージ

手取り2,000万ドン(ネット)のエンジニア1名を、 1年間雇う場合の考え方です。

項目年額(ドン)円換算
本人の手取り(2,000万 × 12か月)2億4,000万約145万円
本人負担の保険・所得税(会社が肩代わり)約6,400万約39万円
会社負担の保険(算定基礎の約35%)約1億600万約64万円
テト賞与(1か月分)約2,500万約15万円
昼食代・おやつ・行事など1,000万前後約6万円
合計約4億4,500万約270万円

※ 円換算は100万ドン=約6,061円(1円=165ドン/2026年8月)で計算。 独身・扶養なし、基本給と総支給が同額(手当を分けない設計)として試算した目安です。 手当を分ければ保険の負担はこれより下がります。料率・控除額・慣行で変わります。

本人が受け取る額の、およそ1.9倍が会社の支出になります。 月に直すと、手取り約12万円のエンジニア1名に、会社は約23万円かかっている計算です。

「手取り2,000万ドンで雇える」という前提で人数分を計算すると、 予算は半分程度しかありません。 10名の拠点を持つなら、19名分の手取りに相当する額を見ておく必要があります。

さらにここへ、オフィスの家賃、PC・機材、 会計・労務のアウトソース費用、日本側の管理工数が乗ります。 自社拠点を持つ場合は、これらも含めて損益分岐を見てください。

委託する場合に知っておく意味

オフショア会社に委託する場合、これらを直接負担することはありません。 ただしその分はすべて単価に含まれています。

「現地エンジニアの手取りは月2,000万ドン(約12万円)のはずなのに、 請求は1名あたり月50万円を超えるのはなぜか」という疑問は、 次の内訳で説明がつきます。

  • 本人の手取り
  • 本人負担の保険・所得税(ネット契約なら会社が肩代わり)
  • 会社負担の保険(算定基礎の約35%)
  • 賞与・福利厚生(テト賞与、行事、食事など)
  • 間接部門(管理・人事・経理・オフィス)
  • ブリッジ人材と日本法人の費用
  • 稼働していない期間のリスク(待機中も給与は発生する)
  • 会社の利益

最後から2つめは見落とされがちです。 ラボ型契約で人数を確保するということは、 相手側は案件の有無にかかわらず給与を払い続けるということです。 この待機リスクを引き受ける対価も単価に含まれています。

予算を組むときの注意

  1. 手取りの2倍で見る(自社拠点の場合。ネット契約・手当を分けない前提)
  2. 基本給と手当の構成を先に決める(社会保険の負担が変わる)
  3. テト前の支出を年間予算に先に確保する
  4. 昇給を織り込む(現地IT人材の給与は上昇が続いている)
  5. 為替の振れ幅を見る(円換算のコストは6年で3割動いた実績がある)
  6. 離職を前提に採用計画を組む(テト明けは特に動く)

3つめと4つめが同時に効くと、負担は想定以上に増えます。 現地の昇給と円安が重なった数年間で、 同じ体制を維持しているだけで円建てコストが大きく上がった会社は 少なくありません。 長期の体制を組むなら、この2つは必ず前提に入れてください。

よくある質問

エンジニアの給与はどれくらいですか?

通常レベルで月1,200万〜2,000万ドンが相場です。リーダー・マネージャー・ブリッジエンジニアになると2,500万〜3,000万ドン以上になります。ただしこれはネット(手取り)の相場で、会社の支出はここから約1.9倍になります。

なぜ給与だけで計算してはいけないのですか?

社会保険の会社負担が日本より重く、かつ福利厚生の慣行が多いためです。テト賞与、社員旅行、昼食代、おやつ代、誕生日プレゼント、祝祭日のお小遣いなどは、現地では「あって当たり前」に近い扱いです。これらを外すと定着率が落ちます。

テト賞与は必ず払うものですか?

法律上の義務ではありませんが、実務上はほぼ必須の慣行です。旧正月前に支給され、月給1か月分(いわゆる13か月目の給与)が一つの目安になります。払わない、あるいは他社より明らかに少ないと、テト明けに退職が集中します。

オフショア会社に委託する場合も関係ありますか?

直接は負担しませんが、その分は必ず単価に含まれています。「エンジニアの給与が2,000万ドンなのに、なぜ請求はこの額なのか」の答えがここにあります。構造を知っておくと、見積もりの妥当性を判断しやすくなります。

この記事の金額について

掲載している金額は、一般的な発注で見かける水準をもとにした目安です。 実際の費用は要件・地域・体制によって変わります。必ず複数社から見積もりを取り、 「何が含まれていて、何が含まれていないか」を比べたうえでご判断ください。

つぎは、実際に依頼先を探す段階です

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